北へ――
その言葉は、逃避ではなく、選択だったのかもしれない。
仲間が減っていく現実を背負いながら、彼らはなお進み続けた。
京でもなく、江戸でもなく、辿り着いたのはさらに遠い地、箱館。
そこは「最後の場所」と呼ぶには、あまりにも静かで、そして広かった。
冷たい風が吹き抜ける港。
異国の気配が混じる街並み。
かつて刀を握りしめて駆け抜けた時代とは、どこか違う空気が流れていた。
それでも、彼らは刀を手放さなかった。
失ったものは数えきれない。
名も、居場所も、そして共に笑った仲間たちも。
けれど、不思議なほどに心は折れていなかった。
いや、折れることすら許されなかったのかもしれない。
箱館で彼らが見たものは、「終わり」ではなく「続き」だった。
新しい政府に背を向けた者たちが集まり、ひとつの形を作ろうとしていた。
それは小さく、不安定で、いつ崩れてもおかしくないものだった。
それでも――
そこには確かに「意志」があった。
刀を振るう理由は、もはや幕府のためだけではない。
誇りのためか、過去のためか、それともただ「自分であるため」か。
誰にもはっきりとは分からなかった。
夜、焚き火の前で交わされる言葉は少なくなった。
代わりに、沈黙が増えていく。
その沈黙の中に、それぞれの覚悟が静かに沈んでいた。
ここが最後の戦場になる――
誰もが、口にせずとも感じていた。
だが、不思議と恐れは薄れていた。
仲間が減っていく中で、彼らは「終わり」に慣れてしまったのかもしれない。
それでも歩みを止めなかったのは、
ただひとつ、「ここで終わるわけにはいかない」という感情だった。
箱館の空は高く、そして冷たく澄んでいた。
その空の下で、新選組は最後の形を整えていく。
もう戻る場所はない。
だからこそ、進むしかなかった。
やがて訪れる決戦の気配を、静かに感じながら――
彼らは刃を研ぎ、心を研ぎ澄ませていく。
そして物語は、さらに深い孤独の中へと進んでいく。
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