都はまだ、何も知らない顔をしていた。
人の声があって、灯りがあって、いつもと同じように時間が流れていく。
けれどその静けさは、どこか不気味だった。
何も起きていないように見える時ほど、時代は深いところで音もなく動いている。
平家は強かった。
強くて、華やかで、揺るがないもののように見えていた。
都の中心にいて、力も名も富も握っていた。
だからこの時、平家の中にはまだ余裕があったはずだ。
まさか自分たちが、この先ゆっくり沈んでいく側になるなんて、
そんなふうには思っていなかったはずだ。
遠くで誰かが立ち上がる。
地方で火が上がる。
不穏な動きがある。
けれど、それだけだった。
その時はまだ、それが世界をひっくり返すほどのものには見えなかった。
平家からすれば、抑え込める火種にしか見えなかったのかもしれない。
長く勝つ側にいた者ほど、足元から広がる冷たさに気づくのが遅れる。
源平の戦いは、最初から激しい嵐みたいに始まったわけじゃない。
もっと静かだった。
もっと鈍くて、嫌な始まり方だった。
小さな反発が生まれ、消えずに残り、少しずつ形を持ち始める。
まだ大丈夫だと思っているうちに、それはもう止められない流れになっていく。
本当に怖いのは、破滅が破滅の顔をして近づいてこないことだ。
崩れはいつだって静かだ。
昨日までと同じ景色の中に、もう終わりの気配が混じっている。
でも、その中にいる者ほど、それをうまく見ることができない。
この頃の平家には、まだ自信があった。
それは空っぽの強がりじゃない。
実際に勝ってきた時間があり、積み上げてきた力があり、
自分たちは簡単には崩れないという確かな感覚があった。
だからこそ、余計に苦しい。
落ちていく運命は、いつも頂点に近い場所から始まる。
戦いはもう始まっていた。
けれど平家はまだ、完全にはその重さを知らなかった。
まだ抑えられると思っていたかもしれない。
まだ終わらないと思っていたかもしれない。
まだ自分たちの時代が続くと、どこかで信じていたかもしれない。
でも時代は、そういう願いを待ってはくれない。
静かに、冷たく、確実に流れを変えていく。
そして気づいた時には、もう戻れないところまで来ている。
平家にとってこの始まりが重いのは、ここにまだ余裕があるからだ。
まだ笑えてしまう。
まだ見下ろせてしまう。
まだ自分たちの足元が崩れているとは思っていない。
その鈍い静けさが、かえって胸に刺さる。
華やかな都の奥で、戦いはもう始まっていた。
そして平家はまだ、その暗さの本当の深さを知らなかった。
終わりはいつだって、こういう静かな顔で近づいてくる。
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